2016年9月26日月曜日

[194] 非上場企業の決算書を有効にするには【国内会計】

決算書は財務内容を正確に表示することにより、企業の現状の課題を正しく認識し、その課題解決に踏み出すスプリングボードの役割を果たすといわれています。その一例として、上場企業では退職給付会計がありますが、退職給付に関する会計処理は、上場企業と非上場企業で相違があります。そのことは年金基金の処理の違いにも結びついています。

◆上場企業は時価会計?
上場企業では2000年に退職給付会計の改正が行われました。それまでの年金会計は給付を確定している厚生年金基金であっても、原則的に毎年の掛け金を費用処理するだけで、約束した給付と積み立てた資産との差額である積立不足は、貸借対照表には表示されていませんでした。
しかし、改正された退職給付会計では、確定給付年金の積立不足は企業の債務ですから、貸借対照表の負債の部に退職給付引当金としてオンバランスすることが求められたのです。いわば、負債の時価会計といえます。当然、その分自己資本は減少します。その積立不足額は予想していた以上に巨額で、自己資本のほとんどを打ち消してしまうような会社すらありました。
その後も運用環境の好転は望み薄で、確定給付型の厚生年金基金を抱え続ける限り、年金資産の運用成績は悪化することが予想されました。そうなると負債の退職給付引当金は増加し、自己資本を毀損させ続けます。ただでさえ厳しい経営環境の中で、そうした危険性のある制度を抱え続けることは株主が許さず、多くの上場企業は、やむなく積立不足の補填という大きな犠牲を甘受した上で、厚生年金基金の廃止や、401k等の確定拠出型年金への変更に踏み切ったのです。

◆非上場企業は取得原価主義?
しかし、非上場企業では上場企業が採用している退職給付会計そのものが適用されていないので、厚生年金基金の積立不足については完全にブラックボックスになっており、決算書からは全くうかがい知ることはできません。そのことが非上場企業の厚生年金基金の解決の遅れにつながっているのが現状です。
基金の抱える深刻な課題の存在は認識できていても、その課題が自身の決算書に表示されず、しかも課題解決には積立不足の解消というかなり強烈な痛みを伴うものであり、処理を先延ばししたくなるのが内心だったのでしょう。そして、そのうちに相場環境が改善されるかもしれない、などといった期待を抱き続けた結果、事態はますます悪化し、問題は放置されてしまいがちになります。

◆決算書を側面から検討してみる
いずれの経営者も自分の会社の決算書に積立不足額が計上され、自己資本を減少させていれば、何とか解決しなければならないと考えます。非上場企業でも、上場企業と同様の退職給付に関する時価会計が導入されれば、事態が深刻化する前に何らかの処置を施すことができるかもしれません。悪いことは時が経つほど状況が悪化して処理が難しくなります。
決算書に企業の現状の姿を正しく映し出す時価会計は、企業の課題処理を促す有用なツールだと考えることができます。非上場企業は、主として税務基準で決算処理を行うため、どのように時価会計を導入していくのかは難しい問題ですが、経営者は将来の起こり得る経営課題をとらえ、顧問の専門家から積極的にアドバイスを受けたりしながらリスク管理を前倒しで取り組むべき時期がきているといえます。

出典:税務研究会より 
【執筆者: Kyosann 税理士・CFP・FP1級技能士】Webサイト | http://et-inc.jp

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